私の脚のギアは、母の鳴らすピストルを合図に逆回転を始める。
島を出る時、二度と戻るものかと固く結んだ拳は、母の手元で何度も緩められてきた。
深刻な高齢化社会に耐えられなくなったこの国では、とうとう先日、
70歳以上の国民の選挙権を若者に譲渡できる制度が施行された。
譲渡した者は優先的に介護サービスが受けられるようになるという。
不機嫌な顔で故郷に戻ると、そこには超大型介護施設「シルバー・ニアの郷」が建設されていた。
本土から出る一日一本の船は、今後、ここに多くの高齢者を運んで来るらしい。
最近、ピストル音が頻繁に耳の奥で鳴り続けるようになった。
その音は、愛情のようで、絶望のようでもある。
祖母から母へ。母から娘へ。
繰り返し渡される重たいバトンを、私はどうやって振り切ろうー。