2026年8月9日〜11日に上演された「いのりたいよるに〜産後ケアセンターひまわり〜」のレビューを、劇作家のやまもとあやさんにご寄稿いただきました。
母親を「孤独」から救うために
生まれたばかりの赤ちゃんに出会う機会がどれほどあるでしょう。
そして、母になったばかりの女性に出会う機会がどれほどあるでしょう。
彼女たちは、世の中からとても、見えにくい存在になってしまっている。
厚いカーテンの向こう側で母が抱える孤独を、プラズマみかんさんはそっと、やさしく照らしてくれました。
物語の舞台になる「産後ケアセンターひまわり」は日帰り・宿泊の産後ケアを実施する施設。利用するのは産後3か月ほどまでの母子のよう。
物語に登場する4人のママ。彼女たちは出産の経緯も異なり、産後の育児にも四者四様の苦悩がありました。
産後の母親の大きな敵のひとつは「孤独」。
大げさでなく、それは母親を殺しかねない。
母親は、出産と同時にこれまでの人生との大きな断絶を経験します。周りはそうは思わないかもしれないけれど、母親にとっては「今まで築いてきた人間関係」「社会的な立場」もどこか遠くの世界になってしまう。ただ小さな部屋のなかで、「私と、この子。ただふたりだけの世界」が続いていく。幸福と正反対の孤独に陥る。
「ひまわり」でママたちは、自分が抱えるしんどさを、堰を切ったように言語化します。そしてほかのママがその言葉を受け止める。また、助産師や保育士たちが朗らかに母親たちを導く。偶然にその日出会った彼女たちが、互いの孤独を分かち合い溶かしていく。身体とともに、母親の心を回復するための「場所」、「『母と子』以外の世界」の必要性を再認識しました。
また、驚いたのはママたちを演じたのが男性の俳優さんだったこと。戯曲冒頭にも『「ママ」と「女」と記載のある役については、男性が演じるのが好ましい。』と書かれています。
「リアリティ」を求めればもちろん、田邊くん以外は皆女性が演じることになるでしょう。けれどその「リアリティ」はこの作品の最適解ではない。男性が演じることでこそこの作品は多くの人に届く。女性が演じた時点で観客はこの「ドラマ」を外側から「みる」だけの存在になり、「どこかの誰かの物語」で終わってしまう。「母親のしんどさ」を客観的に「知る」に留まってしまったでしょう。
ママを演じられた男性の皆様はどれだけ調べ想像し、母親の産後の身体を、精神を身体に落とし込んでいったのだろう、と創作の過程を想像します。俳優の試行錯誤を想像することで、観客も「母親」という存在についてより思いを巡らすことができたのではないか。少なくとも私はそうでした。
男性が母親を演じること、全公演手話通訳、託児サービス、アフタートーク、パンフレットの解説…舞台上の演劇だけではなく、ひとつの「公演」として、「この劇を伝えたい」というプラズマみかんさんの強い意志に、なにより心打たれました。演劇は劇場だけで完結するものではない、社会への架け橋になり得る。そう信じられる作品でした。
本当に勝手な欲を言うのであれば、全国のパパママ教室で、ぜひパパにこの作品を演じる体験をしてもらいたい!本当に!みんなでいっしょに考えようよ!この作品は、これからも広く読まれ、演じられてほしい。それが多くの母親を孤独から救い、こどもたちを幸福に導くだろうと思います。
やまもとあや
劇作家。空の驛舎所属。伊丹想流私塾17期、伊丹想流私塾マスターコース8期卒塾。近年の作品に「祝福」「花を摘む人」など。